9.21.2012

VOX - Wow Fuzz (1970's)


 今回はVOXネタです。VOXていうブランドはその長い歴史において、いろいろと面倒くさい経緯がある、ということは何度も書いてきましたが、今回は70年代のお話です。

 1968年、ROYSTON GROUPという投資会社がVOXという楽器ブランドの名前を買い取りました。実はその直後、ROYSTON GROUPが(管理下にあった)別会社の経営不振に伴って、VOXのオリジナルでもあるJMIに「VOXの権利を買い戻すつもりはないか」というオファーをしたそうです。
 以上のことはVOXの公式ヒストリー文に出てくることです。ただし正確に書くのであれば、この時点ですでにJMIという会社はありませんでした。JMIの創始者であったトム・ジェニングスは同年「JENNINGS ELECTRIC DEVELOPMENTS」という新会社をおこしていますが、おそらくその会社を指すのだと思われます。
 そんな話し合いを経て、同年 VOX SOUND LIMITED という会社が作られています。ただし、この会社の代表が誰だったかはわかっていません。トム・ジェニングスが買い戻したかどうか、もわかってはいません。

 ところが、69年には「VOX SOUND LIMITED」という会社はそのまま丸々売りに出されます。この時シュローダー・バンクという銀行投資部門がこの会社を買い取ります。70年にはイギリスの一番南東に位置する海沿いのド田舎、SUSSEX州HASTINGSというところに会社の住所が移され、工場も作られた、とのことです。

 時期としては69年から73年まで、約4年にわたってVOXという会社はここにあったのですが、73年には「VOX SOUND LIMITED」は会社を畳み、全ての権利をCBS/ARBITERに売り渡しています。
 当方がこのブログで「VOXという会社は過去も現在も存在していない。ただし、一時期だけVOX SOUND LIMITEDという会社があったけど」と書いているのは、そういう経緯によるものです。

 さてさて、今回の本題はそんなことではなくて、こちらのペダルのご紹介だったりするわけです(笑)。こちらはVOX SOUND LIMITEDが存在した時期に製造・発売された、VOXブランドのファズ・ワウ複合ペダルで、VOX WOW-FUZZという名前のブツです。

 ご覧頂けるように裏蓋には「MANUFACTURED BY VOX SOUND LIMITED, HASTING, SUSSEX ENGLAND」とありますが、まあ誰がどう見てもこれを作ったのはロンドンのSOLA SOUNDであることは一目瞭然です(笑)。

 その証拠となるような記載は一切ないのですが、筐体はSOLA SOUND/COLORSOUNDのTONE BENDERと同じモノが使用されています。また、回路もSOLA SOUND/COLORSOUNDが発売していたWAH FUZZ SWELLと全く同じモノが採用されています。まあ、SOLA SOUNDがVOXブランドのOEM製品を供給していたことはその何年も前からあったことなので、このペダルに関しても同様の経緯で製造されていたことは容易に想像いただけるかと思います。

 この黒い筐体で、金色+ブルーという、見慣れないロゴ・ステッカーが貼られたVOX製品(他にもTONE BENDER MK3や、純粋なワウ・ペダルもあります)は一部で「VOX HASTINGS SERIES」と呼ばれているようです。もちろんそんなシリーズが当時実際にあったワケではなくて、VOX SOUND LIMITEDがHASTINGSにあった時期の製品だから、そう呼ばれている、ということになるんでしょうね。

 それはともかく、中身は70年代のCOLORSOUND FUZZ WAH SWELLと同じモノです。FUZZ部分は2ケのシリコン・トランジスタ(写真を掲載した当方の所持物は、BC184Lが2ケ)搭載されています。ファズのサウンドとしては、所謂60年代のTONE BENDERの面影は殆どなく、シリコン・ファズ特有のシャリシャリしたトレブリーなファズ・サウンドです。ただし、トランジスタ2ケ使いなので、ギターのボリュームを絞れば、よりカリカリなクランチが生み出せます。

 このVOX WOW FUZZに限らず、COLORSOUNDのFUZZ WAH SWELLでも同様なのですが、初期のモデル(おそらく74年くらいまで)は、ワウ回路とファズ回路が、それぞれ独立した2枚の基板が用いられており、筐体の中に基板が2枚内蔵されている、というモノでしたが、その後これらの2つの回路は1ケの大きな基板にまとめられています。中古で目にするCOLORSOUNDのWAH FUZZは、2ケの基板モノと1ケの大きな基板モノ、両方ありますがどちらも基本回路は同じです。

 余談ですが、二年ほど前にイギリスのD.A.M.がこの「2ケ基板」回路を忠実に再現したワウ・ファズを復刻製造したことがあります。オリジナル同様にシリコン・トランジスタを用いたペダルで、筐体はCOLORSOUNDの長方形の筐体を採用していましたね。

 しかし、ご覧頂けるようにこのVOX WOW FUZZも、COLORSOUND WAH FUZZ SWELLも、どちらも(ワウの足踏みコントロール以外は)ツマミで音色をコントロールすることが出来ません。内部回路にはアウトプット・トリマーのための内部トリムポットが1ケありますが、歪みとか、トーンとか、そういうコントロールは一切できません。なかなか使い勝手はよろしくないエフェクターです(笑)。

 とはいえ、このペダルがFUZZ回路もWAH回路もともに英国製で、VOXのブランドで発売された製品であることには間違いありません。VOX製のファズやワウ、といえば大方がイタリア製であったりしますが、そんな意味でもちょっと珍しい部類に入るだろう、と思われます。
 それにしても、このペダルはファズのスイッチが筐体前面(ツマ先の部分)、ワウのスイッチが筐体後方(カカトの部分)、にあるわけですが、やっぱり使い辛いですねえ(笑)。同様のスイッチ配置のブツは、例えばドイツのSCHALLERのFUZZ WAHとか、他にもあったりはしますが、淘汰されるのも仕方ないなあ、とも感じるワケです。
 

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