3.06.2012

Masayuki Mori Interview - Part 1



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 北野武監督映画の「プロデューサー」でもあり、あのビートたけしいわく「森さんはオレを使う人」という存在でもある、オフィス北野の社長・森昌行氏。たけしも頻繁にネタにするほどの「ギター大好き森社長」は、筋金入りの理論派であり、同時に求道的とすら感じるほどのギター愛好家。ファズ、特にTONE BENDERを愛してやまないという氏に、ファズ・コレクションの一部を持参していただき、その魅力と氏の「ファズ信条」を語ってもらった。



森昌行(以下M):実は僕の場合「昔からファズに興味があった」っていうワケではないんですよね。今でこそこんなですけど(笑)。でもねファズって何が面白いかといえば、「まさしくギター・エフェクターである」っていう面なんですよ。
——あ、いま早速名言をいただきました。有り難うございます(笑)。その点、詳しくお聞かせいただけますか?
M:ようするにね、エレキギター専用、とでも言えばいいのかな。たとえばワウ・ペダルでさえ、他の楽器に繋いでも効果が出る。マイルスがやったようにね(註:マイルス・デイヴィスはトランペットにピックアップを付けて電子化し、それにワウ・ペダルを通すという使い方をした人物。ワウはもともとはトランペットの奏法から考案されたエフェクトですが、電子機材でそれを実現したのはマイルス)
——んー、なるほど。オルガンとかエレピにワウを使う、というのはよくある例ですもんね。
M:そう、ヴォーカルにさえかけちゃうことが出来る。でもファズは「ギターのため」、しかも「歪みのため」に特化したエフェクトですよね。
——歌にファズかける人はいませんもんね(笑)。
M:オーバードライブっていうのは、ある意味プリアンプの特殊な形態、と考えることもできるでしょ。ギターの持ってる特性、それからアンプの持ってる特性、その中間において両方の特性を生かすための機材、っていうふうに僕は捉えてるんですよ。
——なるほど。ところがファズの場合は…
M:特性とかカンケーねえ!(笑) ギターがレスポールだろうがビザールだろうが関係ねえ、アンプがグヤトーンだろうがダンブルだろうが関係ねえ!っていう(笑)。その潔さ。
——素晴らしい(笑)
M:それは演奏の方法にも関係するんですよね。ファズを使ったギターのプレイは極めて直線的なものにならざるを得ない。ゆったりと表現にカーブをもたせたりもできない、極端にいえばスウィープもできない、っていうね。器用にピッキングの強弱でドライブさせるとか、タップでテクニカルにサスティンを活用するとかもできない。
——コード弾きさえ難しいですもんねえ。森社長が最初に手にしたファズって何か覚えてますか?
M:最初に買ったのは、たしかエレハモ(BIG MUFF)だったかなあ。あのね、最初にファズを聞いた体験は、ベンチャーズだったのよ。60年代の中頃。
——あ、そんな昔からファズを意識されてましたか。
M:でもね、当時はエレキギター持ってなかったから。フォークだったし(笑)。エレキギターの値段はサラリーマンの月収分くらいしたからね。当時エレキ持ってた人は、みな嫌みったらしい金持ちのボンボンばっかりだったわけですよ(笑)。そういうヤツはたいていドラムセットまで家に持ってたりして。
——金持ちのドラ息子、ってやつですか(笑)
M:そう。商店街で一番羽振りのいい店の息子とか。オレみたいな貧乏人のセガレには無理な話でね。ファズの音を知ったのはベンチャーズだけど、その後で強烈に「ファズの音」として認識したのは、やっぱりストーンズの「SATISFACTION」から、でしたね(註:日本盤の発売日は65年9月1日)
——それもリアルタイムでしたか。
M:うんリアルタイム。ビートルズに夢中になった、さらにその後だけどね。日本のラジオでストーンズの曲がバンバンかかるようになったのは「SATISFACTION」以降の話だから。で、あの例のリフ。マエストロFUZZ TONEで、単音のリフだけで、最後まで持っていっちゃう、という。
——ファズの一番基本的な使い方ですよね。
M:うん。恐ろしくシンプルな(笑)。
——キース・リチャーズもゲイリー・ハーストも偶然同じような事を言ってるんですが、最初はやっぱり「エレキギターでホーン(管楽器)のような音を出したい」っていうのが一番の理由だったようなんですよね、当時は。
M:で、それからずーっと後になって、エレハモのBIG MUFFを弾いてみたら、「ああ歪む歪むどんっどん歪む〜」ってカンジで(笑)。その頃にはもう「でも、こんなディストーション・サウンドって一体どこで使うの? ニール・ヤングなら使うかもしれないけどさあ(笑)」なんてカンジでしかファズを捉えてなかった。
——ニール・ヤングならアコギでも多分平気でファズを踏むかもしれませんね(笑)。
M:よっぽど計算して狙って使うのならありかもしれないけど、当時MUFFにもそれほど入れ込んだわけではないですね。でも更にその後になってから、やっぱり自分はジミヘンなんかも大好きだから、「ファズといえばFUZZ FACEは外せないな」ってことになるわけですよ。
——なるほど。森社長とFUZZ FACEとの出会い、ですね。
M:ところがFUZZ FACEってやたらと難しいでしょ?
——ええ、大変ですね(笑)。簡単にはいい音が出せた試しがない、という(笑)。
M:扱いが難しい。つまりね、もう「普通のファズじゃない」と。つまり、ジミヘンもそうなんだけどブワーっと歪んだファズの音を求めて使うっていうだけではなくて、例のボリュームを絞ったときのクランチで表現する「ワビ・サビ」の部分ね、そういうのを勉強するわけですよ。そのいい例はエリック・ジョンソンだと思うんだけどね。彼もいつもFUZZ FACEを使うんだけど、聴いてるだけじゃ一体どこでファズをオンにしてるのかわかんないっていうくらい「ワビ・サビの世界」ですよね。さっき言った「直線的」というファズの使い方とは真逆の、それこそ早いパッセージとかカッティングなんかでも生かせるファズの使い方。そういうのを学ぶようになりましたね。そして初めて気付くわけですよ。ファズはすごく奥が深いぞ、と。
——ほんと深いですねー。
M:我々が初めてエレキギターを手にするようになった、それこそグレコのEG360が出た頃…
——あ、成毛滋さんの教則カセットのついてたギターですよね(註:富士弦製造、グレコ・ブランドで72年に発売されたレスポール・コピー・モデル。当時の定価36000円。ピックアップは「ハムバッカー型」のシングル・コイル2機で、ホロウ・ボディ、デタッチャブル・ネック、というモデル。当時成毛滋氏が実演する教則カセットテープ、もしくはソノシートがオマケでついていた)
M:僕はいまだにあのカセットテープ持ってますけどね(笑)。で、当時成毛さんはね、「ジェフ・ベックもクラプトンも、ファズなんて使っちゃいない。あの歪みは全部マーシャルのアンプとギターだけで出る音なんだ」と言ってたわけですよ。
——80年代にラジオ(註:『パープルエキスプレス』のこと。成毛滋氏がインストラクターを務めるギター奏法の深夜ラジオ番組)に出演されてた頃にも「マーシャルとワウがあれば他には何もいらない」と仰ってましたね。
M:そう。ワウはトレブルブースター代わりに、ってね。昔からそう言ってた。でもね、すぐ気付く訳ですよ。クラプトンもベックもジミヘンもペイジも、みんなファズ使ってたじゃねえか、と(笑)。なんだよ、と(笑)。
——アハハ。結果的にはそうですね。
M:でね、いざ自分がファズを使うようになるとさらに気付くわけですよ。FUZZ FACEはメチャクチャ扱いが難しい機材だ、と。飛び道具的でもあり、繊細な音も出せると。で、自分ではなかなか出せない音なのに、ベックとかクラプトンのような「巧み」が使うと凄い音を出す。その特性を完全に判った人がそういう機材を使うと素晴らしいサウンドを奏でるわけですよね。オーバードライブとかディストーションでは、そこまでの差は出ないでしょう?
——そうですね。今のエフェクターは、いつ誰が踏んでも同じような効果が保証されるぞ、みたいなウタイ文句のモノが多いですね。
M:やっぱり僕にはあの当時、60年代後半のブリティッシュ・ロックのサウンドには強烈な憧れがありますからね。だからそこからTONE BENDERっていう言葉にも、憧れがあったわけですよ。当時はMK1だか2だか3だか何も知らないんだけどね。それ同様にいろんなメーカーからパカパカと発売されたTONE BENDERに片っ端から興味を持ってったってことですよね。
——そのあたりの経緯は、TONE BENDERに興味ある、っていう人にとっての、おそらく共通の経緯でしょうね。森社長はもう長年TONE BENDERを追っかけてる、というカンジですか?
M:長いですね。TONE BENDERに興味を持って、COLORSOUNDっていうブランドを知る。で「カラーサウンド? 一体なんだろう?」と新しい興味を持ってしまう、とか。それの連続ですよね。リアルタイムではなかなか判らない話ばかり多くて。ファズにかぎらず、ギターのスペックも一緒ですよね。

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森社長のコレクション その1 VOX TONE BENDER (Made In Italy 1966)

 取材日に実際にお持ちいただいたペダルの数々をご紹介。こちらはイタリアのEME(後のJEN)で製造された、VOX TONE BENDERの初期(66年)の個体。ハンマーグレーの筐体で、裏蓋も同じハンマー塗装が施されているもの。詳しくは後で出てくるインタビューの中で森社長が説明されていますが、同じものを2ケ所有とのこと。シリアルが若い(1500番台)ので購入してみた、とのことで、もう一個の同ペダルは6000番台。その音の比較を訊いたところ「音がちょっと違うんですよね。若いモノのほうがまろやか、っていうか太い。こっちの若いほうは、完全に音で決めて買いましたね」とのこと。ちなみにその6000番台のほうはドがつくほどのミント状態で、ビートルズの絵が箱に描いてあるもの(おそらくアメリカ流通のもの。当時のKING/VOX製ワウ等にも同様にビートルズの絵が描いてある外箱がある)。VOXのTONE BENDERは回路がMK1.5(ゲルマ2石)で音がカリカリにトレブリー、というモノが多いのが特徴ですが、こちらはずっとマイルド、とのこと。トランジスタは型番不明のシルバーのゲルマ・トランジスタ。



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