10.05.2010

D.A.M. Professional MK2

 
 そんなわけで、今回はイギリスのD.A.M.(DIFFERENTIAL AUDIO MANIFESTATIONZ / D*A*Mとも表記されますね)が発売したMK2クローン・ファズ、その名もマンマ「PROFESSIONAL MK2」をご紹介したいと思います。
 そんなわけとはどんなわけか、は前回のエントリーを参照いただければと思いますが、とにかくTONE BENDERクローンといえば、D.A.M.製品を外すワケにはいかない、という程に有名なペダルですよね。ロゴ・プリント内に「レプリカ」という文字が印刷してありますが、そんなところからも律儀なデイヴィッド・メイン氏らしいなあ、と思ったりもしました。
 出来うる限りオリジナルに忠実に、そして最高のサウンドを目指して、というわけでして、マス・プロダクツでは再現できないハンドメイド、イングランド・メイドにこだわった極右TONE BENDER、とでも申しましょうか(笑)。そんな性格のクローン・ファズであります。

 D.A.M.製のTONE BENDERクローンはこのMK2の他にも、MK1.5クローンである1966、MK1クローンの1965、MK3クローンのFUZZ SOUNDの4種類あるのですが、そのうち3つでこの大きな長方形の筐体が採用されています(FUZZ SOUNDのみ、小さくて平べったい別な筐体を採用)。そしてそれらの右サイドには黒い電池ボックスのフタが見えております。ようするに、ここをグイと押す事で電池が(エヴァのエントリープラグのように)ポロンとはずれ、ワンタッチで電池交換ができる、というワケですね。この電池ボックスを採用しているペダルは他社製品にも見かける事が出来ますが、実はこのパーツには接点的にちょっとだけ弱点があるらしく、ここ最近ではこの電池ボックスを採用したペダルを見かける事は少なくなってきました。D.A.M.の現行品ペダルも、これを使うことはほぼなくなったようです。

 さてその中身です。実は、66年のオリジナル・スペック同様に、このD.A.M製PROFESSIONAL MK2もトランジスタには3ケのムラード製OC75という選択で製作されたのですが、今回写真を掲載したものは、その限定版カスタム品ということで、トランジスタにはOC82DMが3ケ使われたもの、ということになります。
 D.A.Mはデイヴィッド氏とルイジさんという麗しい女性、の2人でペダル製作をしているブランドですが、このペダルはデイヴィッドのサインが入っていることから彼がアセンブリを担ったことが判りますね。そして、D.A.M.製品はカスタム・オーダーをした人の名をいつも記述するのですが、このPROFESSIONAL MK2は日本のキタハラ楽器の為に製作されたことが、同じく中のサインから判読できます。

 キタハラ楽器さんはD.A.M.製品の日本代理店ですが、とある情報筋から聞くところによると社長のキタハラ氏はなんと1973年7月4日のジギー・スターダスト引退ライヴを実際に会場で見た(!)、という恐るべき方(笑)なのだそうです。当方は直接の面識がないのですが、いつか機会があれば、是非お会いしてその話をお聞きしたいところではあります。それはともかく、デイヴィッド・メイン氏とキタハラ楽器さんの間にそんな「ミック・ロンソンを通じた関連性」があると知って、第三者のクセに当方はなんだか嬉しくなったりもしました(笑)。

 話を戻しましょう。なぜOC75に変えてOC82DMを使用したか。これはデイヴィッド本人の弁によると、60年代の終わりに若干数だけ作られたオリジナルTONE BENDER PROFESSIONAL MK2のOC81D版のサウンドを目指した、とのこと。
 回路が全く同じであっても、トランジスタの違いによるファズの歪みがどう変わるか、に関して、デイヴィッドによればOC75は「コンプ感とゲート感が強く、荒くて濃密な歪み」OC81Dは「オープンで滑らか、ダイナミックな歪み」と分析しています。ただし、彼が「THE EFFECTOR BOOK Vol.7」の連載原稿の中で強調していたのは「その型番よりも、歪み値の選定、バイアスの調整、そして回路の理解こそ重要」とのこと。電気に詳しくない当方でも、このことには強く同意せざるを得ません。
 ジミー・ペイジが使用したTONE BENDER PROFESSIONAL MK2にはOC81Dが採用されていた、というもっぱらの噂ではありますが、既にその真偽を確認する術はありません。それよりも、ペイジが実際にどんなサウンドを出していたか、そのほうが重要なのは、言うまでもありませんよね。
 ムラード製のゲルマニウム・トランジスタOC81Dは、既にOC75を上回る激レアっぷりで評判ですが、その銘柄よりもやはり実際のサウンドを確認したほうがファズのあるべき姿を調べるのに有用だろう、とは思います。

 さて、それではこのD.A.M.製PROFESSIONAL MK2はどんなサウンドか。前述したようにトランジスタはOC82DMで、デイヴィッド氏が「OC81D」のサウンドを狙った、ということは既に書きましたが、以下、当方の個人的なインプレッションになります。
 まず気づくのは、実はこれはD.A.M.製のファズ全てに関していえることですが、トップエンドがほんのちょっとだけ控えめで、耳障りがすごくいい、ということです。

 それからトランジスタに関して。JMIがOC75を3ケ使用したPROFESSIONAL MK2クローンを、またわがMANLAY SOUNDもOC75を3ケ使用した「SUPER BENDER(限定版)」を発売していますが、いずれも殆ど回路は同じです。故に純粋にトランジスタの違いを比べるのに都合がいいわけですけど、その比較でいうと、やはりOC82DMはデイヴィッドが言うように、若干キメの細かいマイルドさを伴ったMK2サウンド、と言う事が出来るかと思います。逆の目線で言うならば、OC75を3ケ使った回路のファズは、より激しくで荒々しいMK2サウンド、と言えますね。

 そして補足情報。D.A.M.製品に採用された英国製の黒いジャック。これはデイヴィッド自慢の一品(笑)、ほぼメンテフリーのパーツだとのこと。抜き差しするたびにプラグの接点を磨いてくれる、という効果を持っていて、マーシャルのアンプで長らく採用されていたパーツなんだそうです。
 それからこのデカい筐体に関して、その大きさの比較写真を撮ってみました(写真右上)。左からSOLA SOUND製MK2、D.A.M.製MK2、MANLAY SOUND製「SUPER BENDER」、そしてMXRの「MICRO AMP」です。これを見ると、D.A.M.の筐体がかなり大きいということがお判りいただけるかと思います(実は高さも結構あって、4cm以上あります)。とはいえ、さすが本家SOLA SOUND製。こちらは馬鹿馬鹿しい程にやっぱりバカでかいスねえ(笑)。
 D.A.M.製品は袋、説明書、ステッカー等、すべてハンドメイドの付属品(写真左)がついてくるんですが、その家庭的なところも当方の心をワシ掴みにしてくれたりします。

 最後に、実はJMIも、OC81Dを3ケ使ったTONE BENDER MK2のリイシュー・ペダルを2010年に発売してますが、こちらは英国ムラード製ではなくハンガリーの老舗TUNGSRAM製の再生産品ゲルマニウム・トランジスタ(DSIというブランド名が付いてます)を使用したものです。DSIのOC81Dは今も入手は割と容易ですし、値段もお手頃で、音も悪くないです(当方の比較だけでの判断ですが)。ただし見た目がムラード製のようなメタル・キャップではなくブラック・キャップなので、いまイチ人気薄なのかな、という印象です。
 

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